『武道を生きる』 松原 隆一郎

著者は東大教授にして、現役の格闘家である。しかも東孝が創設した「空道」というハードなフルコンタクト・空手流派に所属し有段者だという。
「白帯初めてのスパーリング」終了後の記述が心に響いた。

「下がってよし」。チャンピオンから待望の声がかかる。がっくりと上体を前に落とし、膝に両手をやって立つのが精一杯。それから三十分、稽古終了の挨拶をし、這うようにして掃除を終えた。だが、服を着替える気にもなれない。力なくペダルを踏み、夜道を家に向かった。普段、三十分で帰宅できる道のりに、一時間半かかった。途中、缶ジュースを立て続けに四本飲む。帰宅後風呂を出ると、食事もできず、居間で座り込んだままの姿勢で寝入った。まさに恐怖、の一夜であった。

夏を控え、格闘技入門者が多くなる時期である。今夜もこんな経験をしている方がいるのではないか。
共感する部分が多い。立技系の格闘技(ムエタイ・空手・テコンドー)をはじめて体験した入門者はまず足腰の弱さを実感するようだ。
たった1分のスパーリング。それを数ラウンド行うだけで足が前に出ないほど疲弊する。膝が笑い出し、ふくろはぎが硬くなる。足の裏は妙に熱を帯び、上段回し蹴りどころか、たった1本のジャブでさえ出ない状態になる。パンチを打つのは足、特にふくろはぎの筋肉を使用する。ヒラメ筋が発達しているか否かでその人の練習量が見て取れる。

明治から戦後、日本格闘技の変遷が広範囲に記述されており、噂どおり読み応えがある。日本拳法や少林寺拳法から柔術、そしてK−1のセーム・シュルト選手まで実に幅広い。この本を読みむことで世界に向けた格闘技の発信源としての日本を再発見できた。

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